院長ブログ blog

ピロリ菌の診療ガイドラインが改定されました。

2024.10.28

ピロリ菌の診療ガイドラインが改定され、「H. pylori感染症の診断と治療ガイドライン 2024改訂版」が本日(2024年10月28日)発刊されました。前回のガイドラインの時にもその作成に関わらせていただきましたが、今回のガイドラインでも治療に関するところの一部を担当しました。

 診療ガイドラインとはどういうものかご存知でしょうか?診療ガイドラインとは、さまざまな医療・健康に関連した課題について、エビデンス(科学的根拠)などに基づいて推奨される最適な診療方針を呈示するものです。エビデンスを集約してその上で推奨を示すので、メタアナリシスのさらにその上の位置づけとなり、それぞれの分野での診療の指針になっております。ただ、その作成には途方もない時間と労力がかかっております。

 今回のガイドラインですが、昨年の6月頃に学会員の中から、ガイドライン作成委員が選出され委員会がつくられました。その後、委員会内で様々な審議を経ていくつかの臨床上の課題がクリニカルクエスチョン(CQ)として選定されました。そして、それぞれのCQについて、委員会のメンバーとは別の複数のメンバー(システマティックレビューチーム:SRチーム)によって文献検索とそのレビューがおこなわれました。すでに、システマティックレビューやメタアナリシスという複数の論文を統合させてある程度結論が出ている課題もありますが、そうしたものも含めて一定のルールの下で集められた多くの論文をSRチームが解析し、推奨文が作成されました。このSRチームのメンバーはCQ毎に異なっており、多くの非学会員を含む専門家が推奨文の作成に関わりました。SRチームからあがってきた推奨文を参考に、各CQ担当のガイドライン作成委員が、ガイドライン草案を作成します。そして、それらの草案にたいしてガイドライン作成委員会内でさらに審議され、修正等を繰り返し、最後に投票によってれぞれの推奨度が決定されます。

次に、外部評価委員といって数名の非学会員の専門家に査読を依頼し、コメントをいただき、それに対して委員会で審議し修正します。さらにパブリックコメントとして、一般に公開して広く意見をいただき、それらを参考に修正に修正を重ねて最終案がまとまります。その後、出版社へ原稿が送られ、著者校正を経て公開(出版)になるのですが、その日が本日であります。

前回のガイドライン作成の時には、委員会開催の度に東京に出かけたりしましたが、現在はWEBサイトでの会議ができるようになり、私も委員会に参加することができ、今回もガイドライン作成に関わることができました。本日、無事に発刊されて一息ついたところです。作成委員長の下山先生はおそらく脱力感と感慨にふけっているかとおもいます。

さて、診療ガイドラインの特徴の一つに保険診療外の診療についても記載・推奨することがあります。保険診療はあくまで承認された診療ですが、医療の質の向上のためには、新たな診療技術、治療薬等々も認可してもらう必要があります。将来の保険診療への道を切り開くのもガイドラインの目的の一つであり、今後保険診療として取り入れるべき内容、取り入れるに十分なエビデンスのある事項もガイドラインには記載されております。ですので、ガイドラインの内容全てが保険診療ではカバーできていないという側面もありますので、注意が必要です。

 今回のガイドラインでは、ピロリ菌の検査時のプロトンポンプ阻害薬等の影響についても文献検索を行い、検鏡法や培養、PCR法、便中抗原では薬物の影響がないと結論づけることができました。早速、厚労省に通達の修正のお願いの文書を作成しましたが、その文書の作成も私がしております。近々、厚労省から新たな通達がでるとおもいます。

 現在、多くの診療分野でガイドラインが作成されて運用されております。それらは、関連学会やその分野の複数のエキスパートが議論を十分に重ねた上で作成されたものであり、すべての医療者にとっての診療のよりどころです。今後もガイドライン遵守の診療を行っていこうと考えております。

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